子どもの権利に関する条例-解説-

前文

 核家族化の進行、少子高齢化社会の到来、さらに情報化、国際化の急激な進展は、価値観の多様化や人間関係の希薄さを生み、子どもの生育に多くの影響を与えている。特に、近年の構造的な不況は、子どもたちの日常生活にも歪みとして暗い影を投げ掛けている。しかし、いつの時代にあっても、子どもの健全な成長は町民すべての願いである。
 次代を担う子どもたちは、奈井江の豊かな自然や人と人との関わりの中で、人を思いやる心や感動する心など心豊かな人間として成長するとともに、変動する社会の中で自らの責任で人生を切り拓く力を備え、たくましく生きることが期待されており、今後の子育ては、従来にもまして社会全体で取り組む必要がある。
 本条例は、奈井江町が「子どもの誰もが一人の人間としてその権利が認められ、幸福に暮らせる町づくり」をすべての町民の協働によって実現することを目指して制定するものである。
 前文においては、子どもの権利の必要性と内容、町及び町民の役割や大人と子どもの関わりなどについて基本的な考え方を示している。

(1)子どもは、家族や友達、地域の大人など、さまざまな人との関わりの中で育つ社会的存在であることから、子どもがのびのびと遊び、学ぶことができる多様で豊かな人間関係のある地域社会の形成と条件整備が大切である。

(2)子どもの権利として保障されるものは、「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」がすべててであるという考えではなく、日本国憲法、児童福祉法、平成元年国連総会採択「児童の権利に関する条約」等と、本町の教育目標、町民の誓い、青少年健全育成の町宣言が要約されていると解釈してほしい。

(3)未来に生きる子どもたちへの遺産は、「自然環境の保全」「異文化との共生」「恒久平和への願い」と、人格形成の基盤となる人権尊重である「子どもの権利」の保障である。

(4)核家族化や生活様式の多様化により、家族の団欒が減少し絆の希薄化につながってきている。子どもの人格の基盤形成には、第一義的責任を持つ保護者及び家庭の果たす役割が大である。特に、基本的な生活習慣、善悪の判断、社会ルールなどの道徳を身をもって示すことが大切であり、家庭の教育力の再構築が重要である。
さらに、子どもの成長による行動範囲の拡大に伴い、子育てを社会全体で担うべく家庭・学校・地域の更なる連携が求められる。

(5)豊かな地域社会を築くには、大人はもちろんのこと、子ども社会規範を守るなど応分の社会的役割と責任を果たすことが求められる。また、今後の町づくりを進めるにあたっては、子どもの新しい意見も取り入れるなど、大人と子どもがお互いに協力する姿勢が必要である。

(6)大人は、子どもとの関わりにおいて、子どもがそれぞれの個性や可能性を伸ばせるよう基本的な愛情と理解をもって接することが必要である。また、その際には過保護・過干渉・放任に陥ることの危険を排するとともに社会のルールを逸脱するような場合には、毅然とした姿勢をもって対処することが大切である。

 以上の認識にたち、町と町民との協働のもと、子どもが幸福に暮らせる町づくりを進めるため、この条例を制定するものである。

【用語解説】
協働…子どもと大人がそれぞれに果たす役割と責任を自覚し、相互に補完し、協力することを言う。

目的

第1条
本条は、条例の目的であるすべての子どもの権利を保障し、幸福に暮らせる町づくりを進めるための基本的な考え方と町及び町民の役割について言及している。
奈井江町で育つ子どもにとって、どのような状況が子どもの成長にとって最善であるかを念頭におき、子どもが社会との関わりの中で自己形成するための方策について、町と町民すべてが共通の認識をもつとともに各々の役割を果たすことにより、条例の目的が達成されるとしている。

【用語解説】
町…地方自治法に定める普通地方公共団体としての町である。
町民…地方自治法に定める住民のことであり、奈井江町域内に居住を有する自然人及び法人をさすが、本条例においては、これに加えて、広く在職者、在学者等で本町とさまざまな関係を有する者を対象としてる。

定義

第2条
 子どもの年齢の範囲については、例えば、少年法においては少年は20才未満とされるなど、法律の立法主旨の違いによって異なるが、本条では、子どもが生まれてから自己形成にいたるまでの時期に着目し、以下の法令に準拠し18歳未満としている。
 
  1. 児童の権利に関する条約:児童は18歳未満
  2. 児童の虐待の防止等に関する法律:児童は18歳未満
  3. 児童福祉法第4条の規定:児童は18歳未満
  4. 北海道青少年保護育成条例:青少年は18歳未満

【用語解説】
すべての者…町民であっても他市町村の職場、施設、学校に通っている者及び町民でなくても奈井江町にある職場、施設、学校に通っている者も含む。

基本理念

第3条
 本条は、本町の子どもの権利の保障と子どもに関する施策を推進するにあたっての基本的な考え方を、4つの基本理念として定めたものである。

 第1項においては、子どもは乳幼児期には、心身とも安定した環境の中で育てられること、成長するにつれ社会との関わりの中で個性を伸ばし、自己実現を図ることができるよう支援することを、町と町民に求めるものである。

 第2項においては、子どもの備える望ましい資質について言及している。町と町民に対して、子どもが健やかに成長できるよう、子どもの主体性や自主性を尊重すること、子どもが社会の一員としての基本的な価値観や社会のルールを身につけることができるよう支援することを求めるものである。

 第3項においては、今後の町づくりを進めるにあたって、豊かな地域社会を築くには、大人だけの意見だけでなく、子どもの成長段階に応じ、子どもの発想や意見を取り入れるなどして、お互いに協力することを、町と町民に求めるものである。

 第4項においては、子どもの健やかな成長には、保護者が子どもを安心して生み育てることができること、家庭・学校・地域社会の連携、協力が必要であることから、町と町民に子育て支援への積極的な取り組みを求めるものである。

町の役割

第4条
 本条は、第1条の目的の実現のため、町に対し行政の多分野にわたって、子どもの権利の保障、子育てに対する支援、保育、教育の充実、子どもの自主的活動への支援など、子どもに関する施策の策定と実施を求めるものである。
 特に、第2項では、子どもの権利保障が町民に深く理解されるために、充実した啓発と広報活動を求めている。

町民の役割

第5条  本条、第1項においては、町民に大人の人生観や価値観、日常生活における行動が、子どもの意識や考え方などに大きな影響を与えているを認識するようあらためて求めるとともに、良き町民として子どもの権利の保障を理解し、人格形成を支援できるよう努力することを求めている。

 第2項においては、家庭は社会の基礎的基盤であり、保護者及び家庭の果たす役割を述べている。特に、保護者には、子どもの養育に対して保護者的機能、教育的機能、経済的機能を有する第一義的責任を明確にし、子どもの権利保障の理解や安全面、健康面をはじめとする配慮と過保護・過干渉・放任を排し、健やかに成長できるよう最善の努力を求めるものである。

【用語解説】
保護者…子どもの戸籍上の保護者のみならず、養父母(里親)、子どもが生活を主としている施設の長を含む。

子どもの生きる権利

第6条
 本条は、子どもが安心して生きることのできる権利を保障するものである。
(1)命が守られ、尊重されること。
 すべての子どもは、その生命が何よりの尊いものとして守られ、尊重される。

(2)あらゆる形態の差別や暴力を受けず、放任されないこと。
 すべての子どもは、民族・国籍の違いや思想・信条・宗教の違い、性別の違い、身体的特色や機能の違い、障害の有無などを理由とするあらゆる形態の差別や虐待、体罰など精神的・身体的暴力を受けず、放任・搾取などといった生命の維持や生育を阻害する状況から守られ、保護される。

(3)健康に配慮され、適切な医療が受けられること。
 すべての子どもは、健康に配慮され、病気や怪我など健康を阻害する状況に陥った場合は、直ちにその回復に向けた適切な治療を受けられる。
 特に、意思表示ができない乳幼児は、保護者の健康管理が不可欠であり、適切な医療を受けられることは、命が守られ尊重されることにつながる。

(4)愛情と理解をもって育まれ、成長にふさわしい環境で生活できること。
 すべての子どもは、保護者をはじめとする周囲の大人から愛情と理解をもって育まれ、成長にふさわしい環境のもとで生活できる。

子どもの育つ権利

第7条
 本条は、子どもが個性豊かに自分らしく育つことのできる権利を子どもに保障するものである。

(1)個性が認められ、人格が尊重されること。
すべての子どもは、その個性や障害の有無など、他者との違いが認められ、人格が尊重されること。

(2)ゆとりとやすらぎの時間・空間的保障がされること。
すべての子どもは、休んだり、遊んだり、文化・芸術活動に参加したりする権利を有し、そのための機会や手段を保障されるとともに、安心して過ごすためのゆとりとやすらぎの時間的・空間的保障を有する。

(3)成長に必要な情報の入手や活用ができること。
すべての子どもは、教育を受ける権利を有し、自ら成長に必要かつ役立つ情報の入手及び活用ができるとともに、有害な情報から守られる権利を有する。

(4)自分の将来に係わることについて、適切な助言や支援を受けられること。
すべての子どもは、知る権利が保障され、必要な情報を入手したり、その年齢や発達に応じて決める権利を有し、そのために必要かつ適切な助言や支援を受けることができる。

【用語解説】
空間的…ゆとりややすらぎのために必要な場所や機会をさす。また、「ゆとりとやすらぎ」には、子どもが「ただなんとなく身をおく心地よさ」も含まれ、それらの心模様も含めての「空間的」という表現とおさえる。

子どもの守られる権利

第8条
 本条は、子どもが自らを守り、守られる権利を子どもに保障するものである。

(1)あらゆる権利の侵害から逃れられること。
すべての子どもは、子どもに保障されるあらゆる権利の侵害およびそれらを脅かす状況から逃れられ、保護される権利を有する。子どもの権利を侵害する状況としては、経済的搾取、性的搾取、有害労働、戦争等が考えられる。
また、過ちを犯し、司法によって裁かれる場合についても、人間性の回復に向けて自己を見つめ直す機会を十分に保障されるよう配慮されなければならない。

(2)成長が阻害される状況から保護されること。
すべての子どもは、成長を阻害する状況から保護される権利を有する。「成長が阻害される状況」とは、酒、タバコ、有害図書、麻薬等の薬物、誘拐などが考えられる。

(3)秘密が守られ、誇りを傷つけられないこと。
すべての子どもは、プライバシーが守られ、個々人の情報を不当に公開されたり干渉されたりしない。
また、名誉を傷つける状況や行為から保護される権利を保障される。

(4)子どもであることをもって不当な扱いを受けないこと。
すべての子どもは、権利の主体者として尊重され、子どもであることをもって差別されたり、不当な扱いを受けない権利を保障される。

子どもの参加する権利

第9条
 本条は、子どもが自らの意志や意見を安心して表明でき、社会に参画することができる権利を子どもに保障するものである。

(1)自分を表現することや意見を表明したことが尊重されること。
すべての子どもは、自己を表現したり、自分に係わることについて自由に意見を表明することができる。また、それらが年齢や成熟の度合いに応じて相応に考慮される権利を有する。

(2)仲間をつくり、仲間と集うこと。
すべての子どもは、自由に仲間をつくって集まることができ、それらが公の安全や秩序を乱したり、他者の権利を侵すものでない限り、制限を受けない権利を保障される。

(3)社会に参画し、意見を生かされる機会があること。
すべての子どもは、地域の行事やボランティア活動、子ども会行事、少年団活動などの社会参加に際し、自発的に参画でき、述べた意見を尊重されるとともに、それが生かされる機会が保障される。

(4)参加に際して、適切な支援を受けられること。
すべての子どもは、自らの社会参加の意志や意見の構築に際し、求めに応じて相談の機会をもったり支援を受けたりする機会が保障される。

子どもの成育環境の保全

第10条
 本条第1項においては、町が子どもの自由な遊びや文化的活動が積極的に行えるよう、公園や公共施設など子どもの日常的な活動の場の維持管理の充実に努めるとともに、奈井江の素晴らしい自然の中で「心のふるさと」を構築し、伸びやかに「生きる力」を養うことができるよう森林、樹木のみどりや池、沼、川の水辺などの自然環境の保全に努めることを求めている。

 第2項においては、町に対して子どもの生育環境を良好に維持するため、子どもの生活に大きな影響を及ぼす事象が生じた場合、必要に応じて関係機関の協力を得て、課題解決のための調整を行うことを求めている。

子育て支援

第11条
 本条第1項においては、本町が活力ある町づくりを進めるうえで重要課題である子育て支援について、町は必要に応じ、育児、教育、住宅の確保、子育てに関する情報の提供や相談、子育てグループの育成など、経済的、社会的な支援などを行うことができることとしている。

 第2項においては、町に子ども自身の抱える問題、あるいは子どもに関する相談窓口の開設、情報提供やシステムの簡素化、正確ですみやかな対応など各関係部局、各種機関との連携を十分に図ることを求めている。

学校・幼稚園・保育所

第12条
 本条は、学校・幼稚園・保育所が子どもの成長に大きな影響を与えていることから、改めて条項を起こし、その果たす役割を示すものである。

 第1項においては、学校・幼稚園・保育所は、子どもの豊かな人間形成の基礎となる力を培う場所であることから、子どもが意欲をもって進んで通える場所であるよう、さらに、いじめ、セクシャルハラスメントなどにより子どもの学習する権利や、保育を受ける権利が侵害されないよう自ら点検し評価することを求めているものである。

 第2項においては、校園長等の経営理念に加え、地域の意見が学校運営に反映されるシステムの導入をはじめ、教育機関と地域住民との双方向の情報発信の工夫を学校・幼稚園・保育所に求めている。

子どもの社会参加

第13条
 本条は、町と町民に、子どもに関わる町行政や町づくり、地域のボランティア活動などへの参加は、子どもの社会性を養い地域社会の一員としての役割を自覚する良い機会であることから、そのような機会を設けることを求めるものである。

 第2項は、町行政や町づくりに直接関わる機関として、各種学校(小・中・高)およびあらゆる児童生徒の代表により構成される「子ども会議」を設置する。

 第3項は、「子ども会議」に付託されている目的を述べている。それは、本条例の適正運用の点検・評価と町行政・町づくりや子どもの生活環境の発展・改善に対して、子どもの視線から検証し、子どもの創造力を生かした施策にすることである。したがって、「子ども会議」が自主的で自発的に運営され、決議された事項が尊重され、町行政機関で実現に向けた努力が重要である。

子どもの活動や町民活動の支援

第14条
 本条は、子どもの自発的な文化・芸術・ボランティア活動などへの参加を奨励し、それらのために自由に安心して集うことができる活動場所や情報提供等の支援に努める。

 また、従前からの子どもの健全育成に関する地域活動への支援(活動場所の提供、情報の提供、補助金の交付、顕彰の実施)等の支援策とともに子どもの自主的な活動や、子ども文化を育むために町民が子どもを対象として行う各種の地域活動などについて、その活動を奨励し、支援することとしている。

相互支援

第15条
 本条は、条例の目的を達成するには、町民をはじめ、あらゆる関係者、関係団体・機関の相互の連携が不可欠であることから、相互連携を円滑に行うため、町が支援するものである。

救済

第16条
 本条は、子どもがいじめや虐待により子どもの権利を侵害するなどの不利益を被った場合は、適切に、迅速に対応し、救済を図るものである。
 第2項は、本町の実態に即した具体的な救済組織として、救済委員会を設ける。

推進体制

第17条
 本条は、町に条例の目的を具体化するため、総合的な施策の推進体制の整備を求めるものである。

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